禁煙会誌 第4巻第2号 2009年4月7日


目次



《編集長挨拶》 禁煙学会誌の編集にあたって 金子昌弘
 
《原著論文》 バレニクリン(チャンピックス®)の使用経験について 平田明子、他
 
《原著論文》 女子学生のタバコに対する意識と生活習慣は関係があるか?
―加濃式社会的ニコチン依存度調査票による分析―
栗岡成人、他
 
《原著論文》 北海道内の宿泊産業における受動喫煙対策の現状と課題 北田雅子、他
 
《特 集》 受動喫煙とおとなの健康:ファクトシート (第1版) 松崎道幸
 
《記 録》 日本禁煙学会の対外活動記録(2009年2月~3月)

日本禁煙学会雑誌第4巻第2号 2009年4月
第4巻第2号PDF版
(4,026KB)




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《編集長挨拶》

禁煙学会誌の編集にあたって

日本禁煙学会誌編集委員会
国立がんセンター中央病院内視鏡部
金子昌弘

 作田理事長の命により、他の学会誌の編集も経験しておりました関係で、僭越ながら昨年12月号から本学会誌の編集を担当させていただいております。本誌の場合すべてをネット上で行うため目に見える素材がなく、まだいろいろとまどってばかりおりますが、2回ほどの発行を通じていくつかの改良すべき点や明確にすべき点が見つかってきましたので、編集委員会内部でも検討を行ってまいりました。その結果について、すでにいくつかの部分では実行されていますが、先日の理事会、総会でも報告し承認されましたのでこの場をお借りして報告いたします。

主な変更点:
1. 各号の投稿の締め切りの廃止

 現在、原則として偶数月のはじめに発行されており、各号に締め切りを設けておりましたが、実際には査読の関係で掲載予定の号には掲載できない場合も少なくありません。また逆に締め切り間際に数本の論文が集中して投稿されるために作業が繁雑になる傾向や、締め切りに併せて未完成の論文が送られてくることもありました。従いまして、締め切りは特に設けず常時受け付けることにしました。
 ただし、これにより目標が無くなり、投稿論文が減少するようでは、本学会の活性化に逆行することになりかねません。広島で発表された演題の中にもまだ論文化されてない重要な研究が多数あります。北海道の学会が始まる前に是非ふるってご投稿ください。

2. 和文抄録などについて
 以前から日本語での投稿には、英文抄録をつけることが義務づけられておりましたが、和文抄録については規定がありませんでした。簡単に内容を理解するためには和文抄録も必要と思われますので、英文と和文で全く同一内容の抄録をつけることを義務づけました。
 おそらく大半の著者の皆様は和文の原稿を作られて、それを英訳していらっしゃると思われますので、それほどのご負担にはならないでしょうし、査読者にとっても、英文抄録の内容をチェックする場合に役立つものと思われます。
 また英文での所属、氏名の記載も明文化されていませんでしたので、これも義務づけることにいたしました。

3. 文字数の制限の撤廃について
 原著等について文字数の制限がありましたが、紙媒体でないので文字数の制限にこだわる必要は少ないと思われますので、あまり厳格には適応せず、一応の目安程度にすることにしました。ただし今後は大容量の図表や動画などを使った論文の投稿も予想されますので将来的には文字数ではなく、全体での容量規制が必要になる可能性はあります。

4. 筆頭著者用チェックリストについて
 投稿された原稿を拝見しておりますと、第3者がチェックすると容易に発見できるような誤字、脱字、ワープロでの変換ミスなどの目立つ論文が皆無ではありません。また文献の記載や単位などの記載が投稿規定に則っていない論文もありました。論文の内容がしっかりしていてもこれらの細かいミスがあると、その都度査読者との間でやりとりをしなくてはならず、掲載までに時間を要してしまいます。
 これらの中には著者のうっかりミスもありますので、投稿に際して著者が投稿前に自らチェックできるよう、チェックリストを作成しました。本誌の投稿規定に掲載しましたので、今後投稿される方はこのページをコピーして表紙としてお使いください。

5. 査読者決定と判定結果のシステム化
 これは投稿者には直接関係ないことではありますが、査読には評議員、理事、監事、サイエンティフィックアドバイザーの皆様に平等にかかわっていただきたいと思いますので、専門分野に関してアンケートを行い、機械的に査読者を決めていくシステムにしたいと考えています。また査読に関しての判定は A: 無修正で掲載可、B: 多少の修正で掲載可再査読不要、C: 大幅な修正で掲載可、再査読必要、D: 大幅な修正が必要、修正後に採択を決定、E: 掲載不可、とし、2名の査読者がE判定とした場合には最終的に掲載不可、1名のみE判定の場合は第三査読者の判定にゆだねる方式といたしたいと思います。

6.編集作業の外注に関して
 現在ご投稿いただいた原稿は、私の方から査読者に転送し、査読結果を著者に戻し、修正原稿を査読者に戻し、掲載可になれば山岡理事に送り、レイアウトを整え、編集委員会のチェックを受けてHPに掲載、さらに2ヶ月後にPDF化して最終的に確定という手順を踏んでおりますが、今後論文数が増えた場合に処理しきれなくなる可能性があります。
 最近はこのようなオンラインジャーナルも増えてきており、これらの作業を代行してくれる業者も少なくありません。総会にて予算的にも認められましたので、今後は外注にてPDF化までの作業が行われる可能性が高くなりました。査読の依頼や原稿の修正依頼などがこのような業者から届く可能性もありますので、よろしくご協力のほどお願い申し上げます。

 禁煙および喫煙の健康被害に関する研究論文は、現状では公衆衛生関係、病理関係、呼吸器、循環器関係などの様々な分野の医学雑誌に分散されて掲載されており、それらを定期的にチェックするのはなかなか困難です。本誌は禁煙に関しての総合的な医学雑誌ですので、禁煙あるいは喫煙健康被害をキーワードにあらゆる分野の研究成果を発表することができます。今後ともふるってご投稿をお願いいたします。
 さらに、以前は同じ内容の論文を複数の雑誌に投稿することは二重投稿として厳に戒められておりましたが、最近は対象となる読者が異なっており、両者の編集員会などで承諾が得られ、既に他誌に投稿済みであり内容も変わらないことを公表すれば、積極的に投稿を勧めるという時代になってきています。海外の雑誌に掲載された論文でも是非正式な手続きを踏んだ上でこちらにも投稿していただければ幸いです。
 一方、オンラインジャーナルの利点は単に紙代や印刷、郵送代がかからないという消極的な面だけでは無いはずです。動画や音声、3D表示など紙媒体では絶対に表現できないような情報を盛り込んだ論文の作成も可能になると思われます。今後はこのようなオンラインならではの情報を盛り込んだ論文の投稿も、是非ご検討いただけたらと考えておりますので、よろしくお願いいたします。

 以上、本誌の編集をお引き受けするにあたってのご挨拶と、編集委員会での検討内容についてご報告いたしました。今後とも皆様方のご研究や経験をどしどしご発表下さいますようお願い申し上げます。



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《原著論文》

バレニクリン(チャンピックス®)の使用経験について

ベルライフケアクリニック
平田明子、佐藤静香、永冨英彦、玉垣芳則

連絡先
〒599-8247
大阪府堺市中区東山580-1 ベルライフケアクリニック
  平田明子
  TEL:072-235-3101,FAX:072-235-3211

キーワード:バレニクリン、禁煙治療、副作用

はじめに
 2006年4月よりニコチン依存症管理料が保険適用になり、2006年6月よりニコチンパッチが薬価収載された。当院でもニコチンパッチの薬価収載時期より本格的に禁煙外来をスタートさせたが、2007年には禁煙治療に訪れる人が前年の約半数程度に減少していた。内服の禁煙補助剤としてバレニクリンが2008年5月8日より日本で発売され、当院でも6月より使用開始した。開始よりバレニクレンの処方を求める人が多く訪れ、処方開始より4か月で受診者数も100例を超えた。バレニクリンは内服による気軽さとアメリカで優れた禁煙効果の成績が認められているが、FDAによると、既存の精神疾患が増悪するほか、過去の精神疾患が再発する可能性や、不安、神経質、緊張、抑うつ感、異常行動、自殺念慮ないし自殺企図などの症状が、処方中や処方後に認められると勧告されており、副作用にも注意が必要である。当院での実診療における使用経験について報告する。

対象
 2008年6月1日から10月31日までに当院禁煙外来を128人(男性73人、女性55人)が受診した(表1)。「禁煙治療のための標準手順書第3版」1)に従い、保険適用での標準禁煙治療プログラムによる禁煙治療をおこなった。当院では、禁煙治療薬をニコチンパッチかバレニクリンかを選択させている。統合失調症やうつ病で通院中の方にはバレニクリン内服による精神疾患悪化の可能性があるため、ニコチンパッチのみ処方している。ニコチンパッチを処方した22人のうち19人は精神疾患合併例である。バレニクリンは海外での成功率が高いことを説明し、8割以上が処方を希望した。本報告ではバレニクリンを選択した106例(男性62人、女性44人)を対象とした(表2)。バレニクリンを処方した人の平均年齢は54.0歳(男性56.4歳、女性50.7歳)であった。受診動機は健康のためという人が53名(50%)、病気のためという人が29名(27%)、社会環境という人が11名(10%)、その他が13名であった。病気を動機にあげた人はCOPD・喘息など呼吸器疾患が15名(51%)、心筋梗塞・動脈瘤など循環器疾患が6名(20%)、消化器疾患が2名(6%)、その他が6名であった。

表1. 当院禁煙外来受診者の内訳
表1.当院禁煙外来受診者の内訳
2008年6月1日から10月31日までに当院禁煙外来を受診した人の内訳を示す。


表2. 対象者の背景
表2.対象者の背景
バレニクリンを選択した対象者の平均年齢、受診動機について示す。

通院について
 バレニクリンによる禁煙治療は、2週間ごとの受診を計7回必要とする。初回に2週間分のスタート用パックを処方した。3日間はチャンピックス®を0.5mg×1回/日、その後4日間は0.5mg×2回/日に増量する。最初の一週間は喫煙を並行しておこなってもよいこととした。2週目からは1mg×2回/日に増量し、忍容性に問題なければ、12週目まで同量を処方した。2週間後、4週間後、8週間後、12週間後を標準禁煙プログラムに基づき、呼気一酸化炭素の測定によるニコチン摂取量のモニタリングと禁煙指導を行い、6週間後と10週間後は副作用の把握と処方を中心とした。 バレニクリンを処方した106人のうち、10月31日までに12週間の禁煙治療プログラムを終了する予定であった人は75人で、このうち中断した人は30人であった。初回受診時に禁煙外来を5回通院した人の方が、再喫煙率が低い旨を伝えているが2)、喫煙衝動がなくなり受診を中断した例も認められた。2008年におけるバレニクリン内服者の受診継続率は、2006年、2007年の受診継続率と比べ、大きな差は認められなかった(図1)。

図1.各年の受診継続率
図1. 対各年の受診継続率
2006年、2007年、2008年の当院における受診継続率を示す。

副作用について
 チャンピックス®を処方し、2回目以降受診した98人を対象に副作用事象について調査した。バレニクリンの副作用と思われた症状について以下に示す(表3)。経過中全く副作用の出現なく、12週間のプログラムを終了した人は3名(3%)であった。一番多く認められた副作用事象は胃腸症状で53例(54%)であった。精神症状は35例(36%)認められたが、精神症状の多くがニコチン離脱症状との区別が困難であった。対症療法薬を内服せずにバレニクリンに慣れてきた3回目以降に副作用症状が改善した例は17例認められた。処方の変更を要した例は17例(17%)で、チャンピックス®0.5mg×2回/日ヘの変更は11例、0.5mg×1回/日と1mg×1回/日への変更は2例、ニコチネルTTS®への変更は2例、内服中止は2例であった。また、特記する副作用事象としては国内の臨床試験、および市販後調査で報告がなかった膣炎があった。膣炎の原因は感染によるものではなく、月経時期に重なっておこったため、女性ホルモンの変動によるものが疑われた。禁煙治療中3回の月経時期があり、3回目の月経の際にはバレニクリンを0.5mg×2回に変更していたところ膣炎は起こらなかった。重篤なものとしては、下痢が1か月以上つづき2kgの体重減少をきたした例があった。急性心筋梗塞後の患者でチャンピックス®の他にも同時期に開始した内服薬があった。チャンピックス®の服用を2日間中止したがおさまらず、因果関係ははっきりしなかった。また、便培養は陰性、大腸カメラによる検査は拒否された。その後、下痢は自然軽快した。

表3. 副作用事象
表3.副作用事象
当院でのバレニクリン内服による副作用を示す。

成功率について
 2006年、2007年、2008年の成功率について示す。2006年、2007年はニコチンパッチによる処方、2008年に関してはバレニクリン内服で、対象期間中に12週のプロトコールを終了予定であった人の中での成功率を示した(表4)。

表4.各年の成功率
表4.各年の成功率
当院での2006年、2007年の総受診数と成功者数および2008年のバレニクリン処方患者の受診者数と成功者数を示す。

考察
 ニコチンは主に中枢神経系および末梢にある、ニコチン性アセチルコリン受容体(nAchR)に作用するが、ニコチン依存を形成するのは中枢神経に存在するnAchRへの作用である。ニコチンが脳内の腹側被蓋野のα4β2ニコチン受容体に結合すると、側坐核につながるニューロンの神経終末からドーパミンが多量に放出され、強い快感や報酬感が生じる。喫煙者はこの快感や報酬感を求めるようになり、喫煙行動の強化を生じさせてニコチン依存症形成へとつながる3)。バレニクリンはこの受容体に結合し、部分作用薬(アゴニスト)として作用し、禁煙に伴う離脱症状やタバコへの切望感を軽減する。また、服用中に再喫煙した場合に拮抗薬(アンタゴニスト)としても作用し、α4β2ニコチン受容体にニコチンが結合するのを阻害し、喫煙から得られる満足感を抑制する1)3)。バレニクリンはニコチンを含まないため、これまでニコチン製剤が処方できなかった不安定狭心症や脳血管障害などの合併例にも処方可能となり禁煙治療の幅が広がった。また、ニコチン代替薬が貼付剤、ガム共に薬局でも入手可能になり、すでにそちらを試して禁煙に失敗した人にも選択肢を広げることができる。 通院回数については副作用事象の把握のため、初回2週間後の受診は必要である。現在の投薬期間は2週間までとなっているが、今後それ以上の処方が可能になれば、全5回の通院のみとなり、成功率が上がるのではと思われた。 副作用事象については減量により症状の改善が得られた例も多く認められた。しかし減量により渇望感の増強が認められた例や、渇望感の増強を心配し減量できなかった例もあった。当院では朝食後0.5mg、夕食後1.0mgの処方にして副作用軽減を得られ、渇望感の増強もなく成功した例があり、0.75mgの規格があれば、副作用への対応がしやすいのではと思われた。バレニクリンはヒト大脳皮質のα4β2ニコチン受容体に高親和性に結合し、その他のニコチン受容体やムスカリン受容体及びコリントランスポーターにはほとんど結合しないとされている。しかし54%と多くの症例で胃腸障害が認められたので、胃腸での吸収過程にこれらの受容体にも作用している可能性が考えられる。 成功率については、アメリカでのバレニクリンの臨床成績では44%であった4)が当院では60%の成功率を得られた。当院の2006年、2007年に行ったニコチンパッチ処方による禁煙治療と比べ、バレニクリンによる禁煙治療成功率は向上している。バレニクリン内服の患者には精神疾患で治療中の人は含まれていなかったことも成功率が上がった一因と考えられる。平成18年度中央社会保険医療協議会の禁煙成功率実態調査報告2)や日本禁煙学会認定専門医による禁煙治療成績5)によるとニコチン代替療法では喫煙の成功率で男性の方が女性より成功率が高いことが認められた。当院でもニコチンパッチによる成功率は、2006年の男性の成功率50%に対し女性は20%、2007年の男性の成功率56%に対し女性は32%であったが、バレニクリン内服による2008年の成功率は男性56%、女性66%と差が認められなかった。女性の禁煙成功が男性よりも悪い点についてアセチルコリンレセプターα4サブユニットの遺伝子多型の変異が認められているが6)レセプターに直接作用するバレニクリンには男女差が生じにくい可能性が考えられる。補助剤の選択は他疾患の有無、男女差により選択していく事も必要である。また、当院では同じニコチンパッチの治療でも、2006年と2007年では、2007年の方が禁煙治療における支援をパンフレットの充実や支援時間の延長により成功率が向上した。禁煙成功には外来での支援も補助剤の選択以上に重要であると考える。

参考文献
1) 日本循環器学会・日本肺癌学会・日本癌学会編:禁煙治療のための標準手順書第3版. 2008年4月
2) 平成18年度診療報酬改定結果検証に係る調査 ニコチン依存症管理料算定保険医療機関における禁煙成功率の実態調査
3) Rollema, H. et al.:Trends Pharmacol Sci 28(7):316, 2007
4) Gonzales,D.et al.:JAMA 296(1):47,2006
5) 山本蒔子:日本禁煙学会認定専門医による禁煙治療成績. 禁煙会誌 2007;2(8)
6) Ming,DL , Jennie, ZM, et al : Ethnic-and gender-specific association of the nicotine acetylcholine receptor α4 subunit gene (CHRNA4)with nicotine dependence. Human Molecular Genetics 2005; 14: 1211-1219.


Our experience of using varenicline (Champix®

Akiko Hirata, Shizuka Sato, Hidehiko Nagatomi, Yoshinori Tamagaki
Bell lifecare clinic, Osaka,Japan

Varenicline was put on the market as a quit-smoking support product in Japan on May 8, 2008, and we began to use it from June, 2008. We have prescribed for 4 months, the number of patients was superior to 100 in our clinic.
106 subjects (62 men and 44 females) that selected taking Varenicline were enrolled. The average age was 54.0 years old (man 56.4 years old and female 50.7). The most common adverse effects were 53 subjects (54%) due to stomach and intestines symptom. Neurological manifestation was identified in 35 subjects (36%). It was difficult to distinguish most of the adverse effects by varenicline from nicotine secession symptom.
The quit rates in subjects treated with varenicline in 2008 was 60%, while nicotine patch in 2006, 2007 was 40%, 48%. Moreover, woman's consultation ratio in 2008 was increased.
Varenicline is non-nicotine prescription medicine, so it is possible to prescribe for the patients of unstable angina and the cerebrovascular accident, etc.
The nicotine patch quit rate in 2007 was superior to 2006, improving the policy of smoking cessation in our clinic. I think the support for outpatients is more important than the selection of the quit-smoking support products.

Key words: varenicline, smoking cessation, adverse effect


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《原著論文》

女子学生のタバコに対する意識と生活習慣は関係があるか?
―加濃式社会的ニコチン依存度調査票による分析―

栗岡成人1,7、北田雅子2,7、吉井千春3,7、稲垣幸司4,7、瀬在 泉5,7、加濃正人6,7

1. 城北病院内科
2. 札幌学院大学総合教育センター
3. 産業医科大学呼吸器内科
4. 愛知学院大学短期大学部歯科衛生学科
5. 筑波大学大学院博士課程人間総合科学研究科
6. 新中川病院内科
7. 禁煙心理学研究会:加濃式社会的ニコチン依存度(KTSND)ワーキンググループ
連絡先
〒606-8053
京都市北区上賀茂岩ヶ垣内町99 康生会 城北病院 内科
  栗岡成人
  TEL 075-721-1612 FAX 075-701-7399
  E-mail:jhkpre@skyblue.ocn.ne.jp

キーワード:加濃式社会的ニコチン依存度調査票(KTSND)、社会的ニコチン依存、喫煙、女子学生、生活習慣

【要旨】女子大学学生を対象に質問票を用いてアンケートを実施し、1,379名の有効回答を得た。喫煙状況は喫煙72名、前喫煙34名、試し喫煙(これまで試しに吸ったことがある)112名、喫煙未経験1161名で、KTSND総合得点の25パーセンタイル値, 中央値, 75パーセンタイル値は、喫煙14.0, 16.5, 19.0、前喫煙10.75, 14.0, 17.5、試し喫煙10.0, 12.0, 16.0、喫煙未経験7.0, 10.0, 13.0であり、喫煙未経験と他の3群の間には有意差があった(p < 0.05)。試し喫煙・喫煙未経験群において、喫煙への興味がある方がKTSND総合得点は有意に高かった。さらに試し喫煙・喫煙未経験群において、肉親、友人、同僚に喫煙者がいるもののKTSND総合得点は、そうでないものより有意に高かった。女子学生の喫煙状況と食生活習慣、飲酒、睡眠習慣、ストレス感、疲労感とは有意な関係があり、喫煙群で好ましくない生活習慣を有する割合が高かった。KTSNDの総合得点は、好ましくない生活習慣、すなわち朝食を食べない、食事のバランスを考えない、飲酒する、就寝時間、起床時間が遅い群で有意に高値であった。喫煙未経験においてもKTSNDの総合得点は生活習慣と関係があった。我々の研究により、タバコに対する意識が喫煙状況に強く影響を受けていること、女子学生のタバコに対する意識と生活習慣が密接に関係していることが確認された。


1.はじめに

 タバコ規制枠組条約(FCTC)が発効して既に3年が経過し、世界では禁煙法などのタバコ規制対策が着実に進展しつつある。日本でもタクシーの全面禁煙化や神奈川県での受動喫煙禁止条例制定の動きなどタバコ規制が徐々に拡がっている。しかし、JTはじめタバコ産業はタバコ規制に反対し、子どもや若年女性をターゲットにして販売拡大戦略を執拗に続けている。青少年、特にタバコの健康被害をより受けやすく、将来母親となる可能性のある若い女性の喫煙は日本では憂うべき状況である。また、喫煙者だけでなく非喫煙者のタバコに対する意識を変革することも、タバコ規制を進める上で課題の一つとなっている。
 以前より喫煙と生活習慣の関連が指摘されており、喫煙者は不健康な生活習慣を有する割合が高いことが多くの研究で明らかにされている1-7)。それゆえ食生活や睡眠などの生活習慣からタバコ問題にアプローチすることは、青少年の防煙教育や禁煙支援を行う際にも有用であると考えられる。
 社会的ニコチン依存 (social nicotine dependence) は、2003年に加濃正人が提唱した概念で、それを評価する簡易質問票として、加濃式社会的ニコチン依存度調査票 (the Kano Test for Social Nicotine Dependence: KTSND) 8) 9) が開発された。 社会的ニコチン依存は「喫煙を美化、正当化、合理化し、またその害を否定することにより、文化性を持つ嗜好として社会に根付いた行為と認知する心理状態」8) と定義される。
 これまでにKTSNDを用いた研究は種々の対象8-18) で行われてきたが、喫煙者のみならず前喫煙者、非喫煙者や様々な社会集団においてもタバコに対する意識を簡単に評価することが可能であり、著者らは女子学生のタバコに対する意識について、2005年度より4年制女子大学でKTSNDを用いて調査してきた13)14)。今回は2007年度の調査結果を分析し、特に生活習慣と喫煙状況、KTSNDとの関連およびタバコを吸わない学生のタバコに対する意識につき検討した。

2.対象と方法
 4年制A女子大学学生および大学院生1,715名を対象に新学期の健康診断時に無記名の自記式質問票(表1)を用いてアンケートを実施した。質問票はKTSND(Version 2)、生活習慣に関する設問および喫煙状況別の設問より構成した。
 KTSND(Version 2)の設問内容は問1~10に示すとおりで、KTSNDの配点は問1のみ左から0、1、2、3点、問2から問10までが左から3、2、1、0点、合計30点満点(9点以下が規準範囲)である。また設問11として医療者の喫煙の是非に関する質問を加えた。
 生活習慣についてはBreslowらの健康に良い生活習慣項目20)を参考にして、朝食、栄養バランス、食事の規則性、外食、運動、ストレス感、疲労感、飲酒、就寝時間、起床時間、睡眠時間について質問した。なお、好ましい生活習慣とは、朝食を毎日食べている、栄養バランスをいつも考えている、食事はほぼ規則的に摂っている、外食はしない、運動を週3日以上している、ストレスをあまり感じない、疲労感についてはあまり疲れていない、酒はほとんど飲まない、就寝時間は12時まで、起床時間は8時まで、睡眠時間は7時間以上と答えたものとし、それ以外のものを好ましくない生活習慣とした。
 喫煙状況については、現在吸っている(喫煙)、かつては習慣的に吸っていたが、現在は吸っていない(前喫煙)、習慣的喫煙歴のない非喫煙群を、これまで数回タバコを吸ったことがあるが現在は吸っていない(試し喫煙)、これまで一度も吸ったことはない(喫煙未経験)に分類し、喫煙状況別に質問を行った。
 統計処理として、KTSND得点と喫煙状況別の比較についてはKruskal-Wallis検定を行い、その後Bonferroniの修正を行った。試し喫煙・喫煙未経験の喫煙に対する興味、試し喫煙・喫煙未経験に対する周囲の喫煙の影響との比較およびKTSND総合得点と生活習慣の比較はMann-WhitneyのU検定、喫煙状況と生活習慣の比較についてはχ2検定およびFisherの正確確率検定を行った。いずれの検定でも5%以下を有意とした(SPSS 11.0J for Windows)。

表1. 自記式質問票
表1.自記式質問票
KTSND(Version 2)、生活習慣に関する設問および喫煙状況別の設問より構成されている。

3.結果
 全学生1,715名のうち1,531名(回収率89.3%)から回答を得られ、そのうちKTSNDの各設問および喫煙状況に無回答がない有効回答1,379名(80.4%;1年:395名、2年:317名、3年:332名、4年:320名、大学院:15名(20歳台10名、30歳台1名、40歳台4名))につき解析した。
1)喫煙状況とKTSND
 喫煙状況は喫煙72名(5.2%)、前喫煙34名(2.5%)、試し喫煙112名(8.1%)、喫煙未経験1161名(84.2%)で、学年別喫煙率は1年3.3%、2年3.8%、3年5.4%、4年8.1%、大学院20.0%であった。KTSND総合得点は、喫煙16.6±4.6; 14.0, 16.5, 19.0、前喫煙14.2±4.5; 10.75, 14.0, 17.5、試し喫煙12.5±5.0; 10.0, 12.0, 16.0、喫煙未経験9.9±4.8; 7.0, 10.0, 13.0(平均値±標準偏差; 25パーセンタイル値, 中央値, 75パーセンタイル値)であり、喫煙未経験と他の3群および試し喫煙と喫煙、喫煙未経験の間には有意差があった(図1)。喫煙状況別設問別の平均得点では、設問3「タバコは嗜好品である」以外で喫煙状況により有意差がみられた(表2)。
図1.喫煙状況別KTSND総合得点
図1.喫煙状況別KTSND総合得点
喫煙未経験と他の3群および試し喫煙と喫煙、喫煙未経験の間には有意差があった。



表2.喫煙状況別項目別KTSND得点
表2.喫煙状況別項目別KTSND得点
「タバコは嗜好品である」以外で喫煙状況により有意差があった。

2)非喫煙者の喫煙に対する興味
 試し喫煙・喫煙未経験群において、喫煙への興味を聞いた設問に対して試し喫煙59名、喫煙未経験1,009名の回答があった。試し喫煙では、吸いたいとは思わない40名(67.8%)、吸いたい1名(1.7%)、吸うかもしれない12名(20.3%)、分からない6名(10.2%)であった。喫煙未経験では、吸いたいとは思わない913名(90.5%)、吸いたい2名(0.2%)、吸うかもしれない33名(3.3%)、一度は試してみたい12名(1.2%)、分からない49名(4.9%)であった。試し喫煙・喫煙未経験全体でKTSND総合得点は、吸いたいとは思わない9.5±4.5; 6.0, 10.0, 13.0、吸いたい14.7±4.7; 11.0, 13.0, no value、吸うかもしれない13.4±3.7; 11.0, 13.0, 16.5、一度は試してみたい12.3±4.5; 9.25, 13.0, 15.5、分からない13.3±4.5; 10.0, 13.0, 17.0(平均±標準偏差; 25パーセンタイル値, 中央値, 75パーセンタイル値)であり、KTSND総合得点は吸いたいとは思わないものに比較して喫煙に興味のあるものおよび分からないと答えたもので有意に高かった(p < 0.05)。
3)周囲の喫煙が非喫煙者のタバコに対する考え方に及ぼす影響
 試し喫煙・喫煙未経験群において、周囲に喫煙者がいるものは961名(75.5%)、いないものは257名(20.2%)であった。それぞれのKTSNDの平均±標準偏差; 25パーセンタイル値, 中央値, 75パーセンタイル値は10.5±4.9; 7.0, 11.0, 14.0および8.8±4.4; 5.0, 9.0, 12.0で、喫煙者のいるものの方が有意に高値であった(p < 0.01)。周囲の喫煙者の全分類において、喫煙者のいるものの方でKTSNDが高い傾向にあり、特に母、兄弟姉妹、友人、恋人、アルバイト先の同僚・上司で有意に高値であった(p < 0.01)。
4)喫煙状況およびKTSNDと生活習慣
 喫煙状況と生活習慣については、喫煙状況と朝食、栄養バランス、食事の規則性、外食、ストレス感、疲労感、飲酒、就寝時間、起床時間、平均睡眠時間との間に有意差がみられ、喫煙で好ましくない生活習慣を有する割合が高かった(図2)。運動については喫煙状況による差はみられなかった。
 生活習慣とKTSNDの総合得点を比較すると、KTSND総合得点は朝食、栄養バランス、外食、ストレス感、疲労感、飲酒、就寝時間、起床時間において好ましくない生活習慣のほうで有意に高かった(表3)。
 同様に、喫煙未経験において生活習慣とKTSNDの総合得点を比較すると、KTSND総合得点は朝食、栄養バランス、就寝時間において好ましくない生活習慣のほうで有意に高く、一方疲労感ではいつも疲れているもので有意に低かった(表4)。

図2.喫煙状況と生活習慣
図2.喫煙状況と生活習慣
喫煙状況と朝食、栄養バランス、食事の規則性、外食、飲酒、ストレス感、疲労感、就寝時間、睡眠時間との間に有意差がみられた。



表3.生活習慣によるKTSND総合得点の差
表3.生活習慣によるKTSND総合得点の差
KTSND総合得点は朝食、栄養バランス、外食、ストレス感、疲労感、飲酒、就寝時間、起床時間において好ましくない生活習慣のほうで有意に高かった。


表4.喫煙未経験の生活習慣によるKTSND総合得点の差
表4.喫煙未経験の生活習慣によるKTSND総合得点の差
KTSND総合得点は朝食、栄養バランス、就寝時間において好ましくない生活習慣のほうで有意に高かく、疲労感ではいつも疲れているもので有意に低かった。


4.考察
 2006年の国民栄養調査によると、日本人の喫煙率は23.8%で、年々減少してきている。男性の喫煙率は39.9%で、4割をきっている。一方、女性の喫煙率は10.0%で、20歳代が17.9%、30歳代が16.4%と若年層で高い値を示している。そして1989年より9~12%の間を上下しながら漸増している19)
 また、医療に従事する女性看護師の喫煙率が一般の女性より高率であることや、妊婦の喫煙率が2000年には10.0%となっており、特に10代の妊婦の喫煙率は30%を越す高率である21)ことはきわめて憂慮すべき事態である。そしてタバコ会社は若い女性をターゲットとして、化粧品のようなきれいでスマートなパッケージ、メンソールや様々なフレーバーを添加した吸いやすいタバコ、女性の喫煙に肯定的なイメージのメディア表現などの販売拡大戦略を展開しており、若い女性に対する防煙、禁煙対策の充実が望まれるところである。
 今回の調査では対象女子学生全体の喫煙率は大学院生も含めて5.2%で、前年度と差はなかった14)。また学年が上がるにつれ喫煙率が若干上昇していることも変わりはなかった。大学生の喫煙率については、性別、学年別、専門性、共学かどうか、地域差など様々な要因が関与するので一概に比較はできないが、通常喫煙率は学年を経るに従って上昇する。A大学では敷地内禁煙を実施していることが喫煙率の低さや学年を経ることによる喫煙率の上昇を抑え、喫煙率を低い状態に保っている可能性がある。
 喫煙状況別のKTSNDの総合得点では喫煙、前喫煙、試し喫煙が喫煙未経験より有意に高得点であった。また、試し喫煙と喫煙、喫煙未経験の間にも有意差があった。各設問別でも、設問3「タバコは嗜好品である」を除き喫煙、前喫煙と喫煙未経験の間に有意差を認めた。これまでの報告ではKTSNDの総合得点は喫煙>前喫煙≧非喫煙の傾向があり、また各設問でも喫煙状況で有意差を認めており8-12)、今回もほぼ同様の傾向であった。今回非喫煙者をこれまで数回喫煙したことのある試し喫煙と、一度も喫煙経験のない喫煙未経験に細分類したが、この両者間にも有意差がみられ、試し喫煙の方がタバコに対する意識が肯定的であることが示された。ただし、元々タバコに対して肯定的なものが喫煙を試すのか、喫煙したからタバコに対して肯定的な考えになるのかは不明である。若年者では1~2本の喫煙でもニコチン依存に陥るといわれており22)、試し喫煙というこれまで数回の喫煙経験を持つものは、通常の調査票では「非喫煙者」というカテゴリーに分類されることが多いが、喫煙予備軍である可能性が高く注意を要する。
 非喫煙者の喫煙に対する興味に関しては、試し喫煙・喫煙未経験群において、喫煙への興味を聞いた設問に対して試し喫煙の方が喫煙に対する興味を示すものの割合が高かった。また喫煙に興味を示すものの方でKTSND総合得点が高かった。北田ら10)が指摘するように、試し喫煙および喫煙未経験でもKTSND高値群は、喫煙予備群として注意深い対応が必要であると思われる。
 若年者の喫煙が家族や友人など周囲の喫煙者の影響を受けていることが以前より指摘されている1)3)5)。著者らも友人、恋人が喫煙するものでタバコに対して肯定的に考えていることを報告した14)。今回の結果でも、母親、兄弟姉妹、友人、恋人、アルバイト先の上司・同僚が喫煙するものではタバコに対する意識は肯定的であった。若年者の喫煙は心理的距離の近い者の影響を受けやすいのではないかと思われる。
 生活習慣と喫煙状況の関連については多くの報告があり1-7)、喫煙者は、一般に望ましくない生活習慣をより多く身につけているとされている。保屋野ら5)によると喫煙者は、非喫煙者に比べて朝食欠食が多く、食事時間も決まっていないものが多いと報告されている。今回の成績でも、食生活については、朝食を食べない、栄養バランスを考えない、食生活が不規則、外食の回数が多いものの割合が喫煙者で有意に多かった。飲酒についても、喫煙者、喫煙経験のあるもので飲酒する機会の多いものの割合が高かった。アルコールやタバコはその後の依存性薬物使用のゲイトウェイドラッグになっていることから、飲酒についての教育も防煙対策として重要であると思われる。外食と同様に食生活の簡便化を示しているコンビニエンス・ストアーの利用状況についての大学生男女の調査では、コンビニエンス・ストアーを利用する群では利用しない群より、健康状況は良好でない傾向があり、実際の食生活状況では「間食の食べ過ぎ」「食事をするのが面倒である」割合が高かったと報告されている23)。喫煙者や前喫煙者では非喫煙者より、食生活の簡便化が進み、それにより健康状態の良好でない傾向が高いことが示唆された。
 睡眠についても、喫煙者は就寝時間が遅く、起床時間が遅い傾向にあり、睡眠時間が短い。すなわち夜型の生活パターンを身につけているといえる。また就寝時間が遅いことが、朝食の欠食につながっている可能性がある。中学生を対象にした先行研究によると、身体的および精神的評価が「異常」「要検診」群で生活リズムが「いつも不規則」なものは、就寝時刻が遅く、睡眠時間が短く、食生活評価が悪い者が多く存在し、生活リズムの規則性に最も関連するのは、就寝時刻であると報告されている24)。本研究では対象者は大学生であるが、同様の傾向がみられた。喫煙者や前喫煙者では、疲労感や不定愁訴等の自覚症状を有する中学生と同じような食意識、生活リズムの不規則性などがみられたことから、喫煙者や前喫煙者では身体的および精神的な問題を抱えている可能性を有していると考えられた。
 喫煙者の生活習慣をみると、朝食の欠食、栄養バランスを考えない、食事不規則、外食が多い、飲酒あり、という傾向が非喫煙者と比べて高く、睡眠パターンも好ましくないことが明らかとなった。
 さらに喫煙者ではストレス、疲労感を感じるものの割合が有意に高かった。山沢ら3)も、よくイライラする、気分がめいりやすいなど精神的不定愁訴率は喫煙群が非喫煙群に比し有意に高いと報告している。ストレスの多いもの、疲労を感じやすいものが喫煙する可能性も考えられるが、前喫煙、試し喫煙では喫煙未経験と差がないことから、喫煙することによりストレスや疲労をより感じるようになる可能性がある。少なくとも喫煙によりストレスや疲労感は減らないといえる。
 喫煙、前喫煙はKTSND得点が高いので、その影響を除くために喫煙未経験のタバコに対する意識と生活習慣との関連をみたところ、タバコを吸わないものでもタバコに対する意識と一部の生活習慣とは有意な関連があった。すなわち喫煙状況だけでなく、タバコに対する意識が生活習慣と関係がある可能性が示唆された。一方、KTSND得点はいつも疲れているもので有意に低かったが、この理由は不明である。これらのことは喫煙者のみならず、非喫煙者に対してもタバコに関する教育が生活習慣全般を見直し、健康的な生活習慣を身に付ける契機になる可能性があることを示すものである。また、生活習慣を見直すことでタバコに対する意識が変わり、タバコからの誘惑を防止することが期待できる。
 日本では未成年者喫煙禁止法(1900年制定)などの影響で、18歳以降に喫煙を開始するものも少なくない2)ので、大学入学後に喫煙開始をいかにして防ぐかが課題である。大学においても敷地内禁煙など吸いにくい環境を作ると共に、タバコについての正確な情報を計画的、継続的に学生に提供する必要がある。そのためには教育カリキュラムの中にタバコ問題を位置付けることが重要である。また若い女性の意識や考え方に合わせた効果的な防煙・禁煙教育のアプローチを生活習慣全般も視野に入れて検討する必要がある。

5.結論
1. KTSND総合得点は女子学生の喫煙状況を反映し、喫煙は前喫煙、試し喫煙、喫煙未経験に比較して、また試し喫煙は喫煙未経験に比較して有意に高かった。
2. 試し喫煙・喫煙未経験群において、喫煙への興味がある方がKTSND総合得点は有意に高かった。
3. 試し喫煙・喫煙未経験群において、周囲の喫煙者がいる方がKTSND総合得点は高い傾向があり、母親、兄弟姉妹、友人、恋人、アルバイト先の同僚・上司に喫煙者がいるもののKTSND総合得点は、そうでないものより有意に高かった。
4. 女子学生の喫煙状況と食生活習慣、ストレス感、疲労感、飲酒、就寝時間、起床時間、睡眠時間とは有意な関係があり、喫煙群で好ましくない生活習慣を有する割合が高かった。
5. KTSNDの総合得点は、食生活習慣、ストレス感、疲労感、飲酒、就寝時間、起床時間において好ましくない生活習慣を有する群で有意に高値であった。
6. 喫煙未経験において、KTSNDの総合得点は、食生活習慣、就寝時間において好ましくない生活習慣を有する群で有意に高値であり、いつも疲れているもので有意に低値であった。

6.謝辞
 稿を終えるにあたり,ご指導をいただきました金城学院大学大学院人間生活学研究科の丸山智美先生に深くお礼申し上げます.
 本論文の要旨は、2008年8月第3回日本禁煙学会総会(広島)にて発表した。

参考文献
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2) 岡田加奈子:一般学生と看護学生の喫煙行動と禁煙教育. 帝京平成短期大学紀要 1993; 3: 55-62.
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4) 宮井正彌:姫路独協大学における学生喫煙実態調査(2000年度).日本公衛誌 2002; 49: 437-446.
5) 保屋野美智子, 白石好, 塩原アキヨ, ほか:女子学生の喫煙と食習慣との係わり.栄養学雑誌 2003; 61: 371-381.
6) 尾崎米厚:青少年の喫煙行動、関連要因、および対策.J Natul Inst Public Health. 2005: 54: 284-289.
7) 寺山和幸, 船根妃都美, 澁谷香代, ほか:ヘルスアクティブな看護師育成のための看護学生のライフスタイル研究(6)‐市立名寄短期大学看護学科で実施してきた喫煙防止教育プログラムの意義‐.名寄市立大学・市立名寄短期大学道北地域研究所「地域と住民」2007; 25: 1-5.
8) 吉井千春, 加濃正人, 相沢政明, ほか: 加濃式社会的ニコチン依存度調査票の試用(製薬会社編).日本禁煙医師連盟通信 2004; 13: 6-11.
9) Yoshii C, Kano M, Isomura T, et al: An innovative questionnaire examining psychological nicotine dependence, “The Kano test for social nicotine dependence (KTSND)”. J UOEH 2006; 28: 45-55.
10) 北田雅子, 武蔵学, 谷口治子, ほか:加濃式社会的ニコチン依存度調査票Version2を用いた防煙教育の可能性についての検討. 日本禁煙医師連盟通信2006. 15付録, 9-11.
11) 吉井千春, 加濃正人, 稲垣幸司, ほか:加濃式社会的ニコチン依存度調査票を用いた病院職員(福岡県内3病院)における社会的ニコチン依存の評価. 禁煙会誌 2007 ; 2: 6-9.
12) Jeong JH, Choi SB, Jung WY, et al: Evaluation of social nicotine dependence using Kano test for social nicotine dependence (KTSND-K) questionnaire in Korea. Tuberc Respir Dis 2007; 62: 365-373. (in Korean)
13) 栗岡成人, 吉井千春, 加濃正人:女子大生のタバコに対する意識調査‐加濃式社会的ニコチン依存度調査票 Version 2 による解析‐. 京都医学会雑誌 2007 ; 54 ; 181-185.
14) 栗岡成人, 稲垣幸司, 吉井千春, ほか:加濃式ニコチン依存度調査票による女子大生のタバコに対する意識調査(2006年度). 禁煙会誌 2007 ; 2 (5)
15) 遠藤 明, 加濃正人, 吉井千春, ほか:高校生の喫煙に対する認識と禁煙教育の効果. 禁煙会誌 2008 ; 3 ; 7-10.
16) 遠藤 明, 加濃正人, 吉井千春, ほか:小学校高学年生の喫煙に対する認識と禁煙教育の効果. 禁煙会誌 2007 ; 2: 11-12.
17) 星野啓一, 吉井千春, 加濃正人, ほか:加濃式社会的ニコチン依存度調査票を用いた小学校高学年および中学生における喫煙防止教育の効果. 禁煙会誌 2007 ; 2(7)
18) 吉井千春, 栗岡成人, 加濃正人, ほか:加濃式社会的ニコチン依存度調査票(KTSND)を用いた「みやこ禁煙学会」参加者の喫煙に関する意識調査. 禁煙会誌 2008; 3: 26-30.
19) 厚生労働省「平成18年国民健康・栄養調査結果の概要」2006年
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/04/h0430-2a.html Accessed for Nov 3, 2008
20) Belloc NB, Breslow L: Relationship of physical health status and health practices. Prev Med 1972; 1: 409-421.
21) 厚生労働省雇用均等・児童家庭局:平成12年乳幼児身体発育報告書(平成13年10月).
22) Christine Jackson: Cigarette consumption during childhood and persistence of smoking through adolescence. Arch Pediatr Adolesc Med. 2004; 158: 1050-1056.
23) 難波敦子, 尾立純子, 浅野真智子, ほか:コンビニンエンス・ストアーの利用の実態と食生活状況.  栄養学雑誌2001; 59: 135-145.
24) 横山公通, 宮崎康文,水田嘉美, ほか:中学生の自覚症状と生活習慣に関する研究. 日本公衛誌2006; 53: 471-471.


The relationship between female students’ perception towards tobacco smoking and their lifestyle as analyzed using the Kano test for social nicotine dependence (KTSND)

Narito Kurioka1,7, Masako Kitada2,7, Chiharu Yoshii3,7, Koji Inagaki4,7, Izumi Sezai5,7, Masato Kano6,7

We sent out a questionnaire to female students at a women’s college and received answers from 1,379 respondents. The respondents consisted of 72 smokers, 34 ex-smokers, 112 experimental smokers (people who have only experimented with smoking) and 1,161 responders who had never smoked. The median KTSND scores of 14.0, 16.5, 19.0 (25 percentile, median, 75 percentile) for smokers and 10.75, 14.0, 17.5 for ex-smokers and 10.0, 12.0, 16.0 for experimental smokers were significantly higher than that of 7.0, 10.0, 13.0 for those who had never smoked (p < 0.05). Among the experimental smokers and those who had never smoked, the mean KTSND score of those interested in smoking was significantly higher than those who weren’t. Furthermore also among these same groups, those whose relatives and associates smoke scored significantly higher on the KTSND than those who didn’t. The smoking status of students was significantly related to their lifestyle, such as their eating, drinking and sleeping habits, and their way of feeling stress and fatigue, and the mean KTSND of the students who were determined to have an “unhealthy” lifestyle i.e. to skipping a breakfast, being not concerned about having balanced meal, drinking more, going to bed and getting up later, were significantly higher than of those who were determined not to have an unhealthy lifestyle. Even among responders who had never smoked KTSND was correlated with lifestyle. Our study confirms that attitudes towards tobacco smoking are deeply influenced by smoking status and that perception of female students towards tobacco smoking and their lifestyle are closely related.

Key words: the Kano test for social nicotine dependence (KTSND), social nicotine dependence, smoking, female students, lifestyle


1.Johoku Hospital, Kyoto, Japan
2.Sapporo-Gakuin University,Ebetsu,Japan
3.Division of Respiratory Disease, University of Occupational and Environmental Health Japan, Kitakyushu, Japan
4.Department of Dental Hygiene, Aichi-Gakuin Junior College, Nagoya, Japan
5.Graduate School of Comprehensive Human Sciences University of Tsukuba,Tsukuba, Japan
6.Shinnakagawa Hospital, Yokohama, Japan
7.KTSND working group in Research Group on Smoke-Free Psychology, Japan


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《原著論文》

北海道内の宿泊産業における受動喫煙対策の現状と課題

北田雅子1、秦 温信2、宇加江 進3

1. 札幌学院大学 総合教育センター
2. 札幌社会保険総合病院
3. 元町こどもクリニック

連絡先
〒069-8555
北海道江別市文京台11番
  北田雅子
  TEL:011-386-8111(5247)
  e-mail:masakita@e.sgu.ac.jp

キーワード:北海道、ホテル・旅館、受動喫煙対策、顧客満足度、ホスピタリティ

1.緒言
 2005年2月にWHOがタバコ規制枠組み条約を発効後、この条約に批准した国々では、先進諸国のみならず、アジア各国においても受動喫煙を防止する施策が積極的にとられている1)。さらに、2007年にWHOが全締約国に向けて行った勧告2)では、FCTC第8条(受動喫煙の防止)を実行するために、受動喫煙には安全レベルがないことから、全ての人の健康を受動喫煙の被害から守るための手段として、屋内の完全禁煙化を強く求めている。そして、屋内禁煙化は自主規制でなく、法律で義務付ける必要があるとしている。
 2008年7月に北海道で洞爺湖サミットが開催されたが、サミット参加8カ国のイギリス、フランス、イタリア、及びカナダ、アメリカの州の大半は、公共施設や職場、バー・レストランなどのサービス産業を法律で完全禁煙にしている1)。平成19年度の調査によると3)、北海道への訪日外国人は約72万人で、その内訳は、台湾、香港、シンガポールといったアジア諸国、オーストラリアなどオセアニア諸国、そしてヨーロッパ・北米諸国などである。アジアの中でも台湾、香港、シンガポールなどは、受動喫煙対策が推進されている国である。このような中、日本では2003年5月に施行された健康増進法により、官公庁や教育機関、医療機関、交通機関の禁煙化は進んでいる。しかし、禁煙法による観光・ホテル業界への悪影響は生じない4)という報告が多数なされているにもかかわらず、飲食店などのサービス産業の禁煙化が遅れているのが現状である5)6)。日本の対策は、欧州諸国のタバコ対策スケールを用いて見てもその遅れは歴然としており7)、ドイツ、ロシアとともに受動喫煙対策の後進国となっているのが現状である。
 ホテル・旅館という宿泊施設は、観光産業における中心的な存在であり、観光地を訪れるゲストを「おもてなし= ホスピタリティ」する空間として、最も重要な場所である。先行研究8)では、京都市内のホテルの調査がなされており、レストランなどの飲食店とともに、客室や公共空間の受動喫煙対策が進んでいない状況が明らかになっている。ホテルなどの宿泊施設の喫煙対策の調査報告は少ないことから、本調査は、最終的には、政令指定都市を中心に、全国のホテル・旅館の受動喫煙対策状況を明らかにし、禁煙化を促進する要因を検討することが目的である。今回は、その調査に先駆けて、2008年7月に洞爺湖サミットが開催された北海道において、主要なホテル・旅館における受動喫煙対策の現状とその課題について調査したので報告する。

2.対象および方法
(1) 調査対象

 2008年4月から5月中旬までの約1か月半の期間において、近畿日本ツーリスト北海道本部で提携している道内のホテル・旅館240か所とした。
 調査対象となったホテル・旅館は,札幌市内,定山渓温泉,小樽, キロロ,留寿都,千歳,苫小牧, 登別温泉,洞爺湖温泉, 函館,湯の川温泉, 旭川, 富良野,層雲峡温泉,白金温泉, 旭岳温泉,稚内,利尻,礼文,帯広, 釧路,川湯温泉, 摩周温泉,阿寒湖畔温泉,網走,知床,などの観光地である。

(2)調査方法
 調査票の発送と回収は、近畿日本ツーリスト北海道営業部に依頼した。調査票の記載は、文書にてホテル・旅館のトップおよび顧客サービスの責任者などに依頼し、自記式質問紙調査を行った。

(3)調査内容
 アンケート回答者の属性として、ホテル・旅館名、記載者名とその役職、喫煙状況を聞いた。ホテル・旅館の受動喫煙対策の実施状況としては、総客室数、禁煙室数、禁煙フロアの有無、メイン・ダイニングなどの食事処と喫茶店・ラウンジにおける禁煙店の有無、フロント・ロビー、各階フロアなどのパブリックスペースの喫煙対策状況を聞いた。そして、現在の受動喫煙対策を実施するに至った理由、禁煙ルームなどの情報開示状況、今後の対策予定、受動喫煙対策推進に必要な要因、最近の利用者のニーズについて併せて聞いた。健康増進法については、事業主に受動喫煙防止の努力義務があることが知っているかどうか、努力義務を果たさない事業主への罰則規定があった方が良いかについて聞いた。そして、タバコ規制枠組み条約を知っているかどうかについても聞いた。なお、この調査票の内容は先行研究8)と筆者らが2007年4月に行った電話による事前調査及び2008年3月に実施したインタビュー調査の結果を参考に作成した。

(4) 集計と解析
 アンケート回答者の属性は、氏名と役職名、そして現在の喫煙状況について回答を求めた。喫煙状況は、「習慣的にタバコを吸ったことがない」、「以前は吸っていたが、現在は吸っていない」、「毎日は吸わないが、時々吸うことがある」、「毎日タバコを吸っている」の中から回答を求めた。なお、「習慣的にタバコを吸ったことがない」を「非喫煙者」、「以前は吸っていたが、現在は吸っていない」を「前喫煙者」、「毎日は吸わないが、時々吸うことがある」と「毎日タバコを吸っている」を「喫煙者」とする。
 喫煙対策の実施状況については、禁煙ルームの有無の他、フロント、各階のロビー、宴会場・披露宴会場の周囲、禁煙フロアのエレベーター前、ラウンジ、メイン・ダイニング、スパ・風呂場の休憩スペース、8箇所について聞いた。各スペースの喫煙対策は、「全面禁煙」、「喫煙室以外は禁煙」、「喫煙場所を指定(喫煙コーナーなど)」、「どこでも自由に喫煙可」、「該当なし」の5つから該当する対策1つを選択してもらった。解析するにあたり、次のように回答を全て2分類した。客室については、禁煙ルームの「有」、「無」、禁煙ルームの割合が「平均値より高」、「平均値以下」とした。そして、上記の9箇所の喫煙対策については、「全面禁煙」と「それ以外」とした。朝食の喫煙対策については、「全ての食事処を禁煙」、「禁煙のレストラン・食事処と喫煙可」とした。
 また、表1に示したようにホテル・旅館は、札幌市内のホテル(定山渓を除く)、札幌市以外の市町村のホテル(小樽、キロロ、千歳、旭川など)、そして温泉地のホテル・旅館(定山渓、登別、湯の川、層雲峡など)の3つに分類した。以下、温泉地のホテル・旅館を「温泉地」、札幌市内のホテル(定山渓を除く)を「札幌市内」、札幌市以外のその他の市町村のホテルを「札幌以外」とする。
 「温泉地」、「札幌市内」、「札幌以外」のホテル・旅館別の喫煙対策実施状況については、割合の差の検定をχ2検定で実施した。解析ソフトはSPSSver16.0を用い、有意水準は5%以下とした。

3.結果
(1)アンケート回答状況
表1
 アンケートの回答状況を表1に示した。今回の調査では、162件(回収率67.5%)の調査協力を得ることができた。北海道内におけるホテル・旅館数9)は、3718(ホテル:609、旅館3109)であるため、今回の調査では全体の約4%をカバーしたことになる。
 客室規模でみると、50から200数未満の規模のホテル・旅館が回答全体の6割を占めた。アンケートの回収状況をみると、「温泉地」42件(回収率57.5%)、「札幌市内」41件(回収率77.4%)、「札幌以外」79件(回収率68.7%)であった。

表1.アンケート回答状況
表1.アンケート回答状況

(2)アンケート回答者の属性表2
 回答者は、男性140名(86.4%)、女性17名(10.5%)と男性の回答者が多かった。さらに、喫煙状況を見ると、非喫煙者が24名(14.8%)、前喫煙者が56名(34.6%)、喫煙者が79名(50.3%)であった。調査回答者の役職は、社長、副社長、宿泊支配人、課長、客室支配人、マネージャーなどで、いずれもその宿泊施設のトップおよび責任者であった。

表2.アンケート回答者の属性
表2.アンケート回答者の属性

(3)ホテル・旅館の受動喫煙対策状況表3
1)客室の受動喫煙対策

 禁煙ルーム「有」と回答したホテル・旅館は全体では101件(63.5%)であり、全く設置していないところは58件(37%)であった。禁煙ルームを設置している割合をみると、「温泉地」で11件(26.2%)、「札幌市内」で39件(95.1%)、「札幌以外」で51件(64.6%)であり、群間における割合の差は有意であった(p< 0.001)。禁煙ルームの割合は、禁煙ルームの総客室数に占める割合であり、全体の平均値は15.4%であった。禁煙ルームの割合が平均値よりも高く設置しているところは「温泉地」が2件(4.8%)、「札幌市内」28件(68.3%)、「札幌以外」は36件(45.6%)であり、群間における割合の差は有意であった(p< 0.001)。
 図1に、客室総数と禁煙ルームの割合の関係について示したが、客室数の増加に伴って禁煙ルームの割合が増加する傾向があるものの(r= 0.306、p< 0.001)、同じ客室規模でも禁煙ルームの設置状況に違いがあることが明らかとなった。
 さらに、禁煙ルームと喫煙可ルームのフロアが分かれている割合を見ると、禁煙ルームを設置している「札幌市内」のホテルは16件(39.0%)、「札幌以外」では30件(38.0%)であることから、禁煙ルームを設けているものの同一フロアにおいて混在しているところが多いことが明らかとなった。

表3.温泉地, 札幌市内,札幌以外のホテル・旅館それぞれの喫煙対策実施状況
表3.温泉地.札幌市内.札幌以外のホテル・旅館それぞれの喫煙対策実施状況


図1.総客室数と禁煙ルームの割合との関係
図1.総客室数と禁煙ルームの割合との関係  (r = 0.309 p< 0.0001)


2)パブリックスペースの受動喫煙対策状況表3
 フロント、ロビー、ラウンジの受動喫煙対策は、「温泉地」「札幌市内」「札幌以外」では「全面禁煙」の割合に有意差はみられなかった。
 フロントの対策をみると「全面禁煙」が71件(44.7%)で半数以下であった。「全面禁煙」以外の対策を行っている88件(55.3%)の内訳をみると、「喫煙室以外は禁煙」15件(9.4%)、「喫煙場所を指定している(喫煙コーナーに灰皿や集煙システム、空気清浄機を設置)」53件(33.3%)、「どこでも自由に喫煙可能」16件(10.1%)であった。この3箇所の中では、もっとも対策が遅れているスペースがラウンジで、「全面禁煙」は全体で22件(15.5%)であった。
 スパ・お風呂場の休憩スペースの「全面禁煙」は58件(35.8%)であり、「温泉地」では23件(54.8%)が全面禁煙にしているが、「札幌以外」で31件(39..2%)、「札幌市内」は4件(9.8%)と少なく、群間における割合の差は有意であった(p< 0.01)。ただし、「札幌市内」ではホテルが多く、公共の大浴場などの設定の有無が不明である。

3)メイン・ダイニングやレストランなどの食事処の受動喫煙対策状況表3
 ホテル・旅館内に全面禁煙のレストランや食事処が1か所でもあるところは、72件(45.6%)、さらに、メイン・ダイニングを「全面禁煙」にしているところは、64件(45.4%)でいずれも半数以下であった。喫茶店やコーヒーショップなどの禁煙化は最も遅れており、喫茶店を全面禁煙にしているところは、わずか7件(4.3%)のみであった(喫茶店有と回答した総数96件)。
 このようなレストランやメイン・ダイニングの受動喫煙対策が遅れているのは、「札幌市内」と「札幌以外」のホテル・旅館であり、「温泉地」に比べると、禁煙レストランを設定している割合とメイン・ダイニングを全面禁煙にしている割合が低く、群間における割合の差は有意であった(p< 0.001)。朝食時、レストランなどの食事処がすべて禁煙のところは113件(79.0%)で、喫煙可の食事処を用意している割合が高いのは「温泉地」であった。

4)禁煙ルームについての情報の開示について
 禁煙ルームや禁煙フロアの有無について、ホテルのホームページやパンフレットやチラシ、ホテル斡旋サイト、予約時や来館時などに禁煙ルームの希望を聞くなど、いずれかの方法で情報を開示しているかどうかを聞いた。その結果、全体では105件(65.2%)がなんらかの形で禁煙ルームなどについて情報を開示していることが分かった。しかし、「温泉地」では、情報を開示している割合が最も低く13件(31.0%)であった。「札幌市内」は37件(90.2%)、「札幌以外」で55件(69.6%)であり、情報を開示している群間における割合の差は有意であった(p< 0.001)。

5) 利用者のニーズとクレーム
 回答者に自由記載で最近の利用者からのニーズやクレームについて書いてもらった結果、「最近の傾向として、タバコに関しての利用者のニーズ」は131件(80.8%)、「タバコに関してお客様からの寄せられたコメント(クレーム含)」 110件(68.0%)の記載があった。利用者からのニーズとして最も多かったのが、「禁煙ルームへのニーズが高くなっている」であり、86件(65.6%)であった。利用者からのコメント(クレーム含)で最も多かったのは、「部屋がタバコ臭い」で66件(60.0%)であった。

(4) 受動喫煙対策の実施理由表4
 現在の対策を講じるようになった理由(複数回答)を聞いた結果、上位3つは「お客様からの要望」102件(63.0%)、「企業・トップの方針」98件(60.5%)、「日本国内の禁煙化促進の流れを考慮して」74件(45.7%)であった。「従業員の健康に配慮して」は23件(14.2%)と少なかった。
 特に、「札幌市内」では「お客様からの要望」が33件(80.5%)と他の2群に比して有意に高かった(p< 0.05)。
 今後、受動喫煙対策をどのような方向に進めていくかについて聞いた結果(複数回答)、最も回答が多かったのが「現状維持」で67件(41.4%)、次に多かったのが「パブリックスペースの禁煙化」で42件(25.9%)、そして「具体的な予定なし」28件(17.3%)であった。「現状維持」と回答したホテル・旅館の受動喫煙対策を見た結果、禁煙ルーム無し21件(13.3%)、禁煙レストラン無し36件(53.7%)など、現状の対策では不十分なホテル・旅館が含まれていた。
 さらに、対策が困難な点を聞いた結果(複数回答)、「バーなどのアルコールを扱う店の禁煙」が最も多く67件(41.4%)、次いで「会議・イベント会場における禁煙」52件(32.1%)、「禁煙ルームの増加」50件(30.8%)、「結婚披露宴の禁煙」35件(21.6%)、「喫茶店の禁煙」27件(16.7%)であった。

表4.喫煙対策の実施理由と今後の対策予定
表4.喫煙対策の実施理由と今後の対策予定

(5) 受動喫煙対策の推進に必要なこと
 今後、受動喫煙対策を推進する上で最も必要な要因について聞いた結果、最も多かったのが「顧客のホテル禁煙に対する理解」66件(40.7%)、次いで「社会的な動向」57件(35.2%)、そして「利用者からの禁煙を求める声」55件(34.0%)であった。

(6)健康増進法、タバコ規制枠組み条約について
 アンケート回答者に健康増進法とタバコ規制枠組み条約についてそれぞれ聞いた結果を図2に示す。健康増進法において病院やホテル、飲食店などの不特定多数の人が集まる施設では事業主は受動喫煙防止の努力義務があることについて聞いた結果、「良く知っている」と「聞いたことがある」が148名(91.3%)で健康増進法についてはかなり周知されていることが明らかとなった。その反面、タバコ規制枠組み条約について、日本も含めた批准国では受動喫煙防止、タバコ消費の削減について活動を行わなければならないことについて聞いた結果、「良く知っている」「聞いたことがある」が107名(66.0%)で、特に「良く知っている」の割合は健康増進法と比べて低かった。次に、健康増進法に努力義務を果たさない事業主への罰則規定についてあった方が良いかどうかを聞いた結果、「あった方が良い」と回答したのはわずか19名(11.7%)で、「どちらとも言えない」が92名(56.8%)と最も多かった(図3)。

図2.健康増進法,タバコ規制枠組み条約の認知度
図2.健康増進法、タバコ規制枠組み条約の認知度 ( n = 162 )


図3.健康増進法の罰則規定について
図3.健康増進法の罰則規定について ( n = 162 )

(7) ホスピタリティと受動喫煙対策の関連について図4
 受動喫煙対策と顧客サービス、ホスピタリティ、環境対策との関連、そして禁煙法について聞いた結果を図4に示す。喫煙対策は、「環境対策の1つとしても重要である」、「ゲストや従業員のホスピタリティとして考慮すべき」、「顧客サービスの向上と関連する」の3つについては、60%以上のものが「そう思う」との回答をしていた。しかし、「諸外国のように禁煙法などの法律で喫煙を規制すべき」については、「そう思う」という回答の割合が低く、「どちらともいえない」の割合が他の3つと比べて多くみられた。

図4.受動喫煙対策とホスピタリティおよび顧客サービスとの関係について
図4.受動喫煙対策とホスピタリティおよび顧客サービスとの関係について ( n=162 )

(8) 回答者の喫煙状況と受動喫煙対策との関連
 回答者の喫煙状況別に、禁煙ルームの有無など表3の項目について検討した結果、どの項目においても、喫煙状況の違いと受動喫煙対策の実施状況における有意差は認められなかった。

4. 考察
(1)優先的に受動喫煙対策が必要な場所

 今回の結果から、ほとんどのホテル・旅館においても、建物内のいずれかの場所に喫煙場所が設定されており、顧客や従業員を受動喫煙の害から守っているとは言えない現状であった。
 先行調査8)では、京都、福岡、北九州、福島のホテルの喫煙対策について行われており、禁煙ルームの割合の平均値を見ると、京都22.1%、福岡20.7%、北九州17.2%、福島20.0%で、今回、われわれが調査した北海道内のホテル・旅館の15.5%よりも高い。調査時期や調査対象ホテルが異なるので、単純に比較することは出来ないが、それでも、北海道のホテル・旅館における客室の禁煙化が遅れていることは明らかである。特に、「温泉地」のホテル・旅館の客室の禁煙化が最も遅れていた。利用者や顧客からのニーズやクレームとして、最も多かったのもこの客室についてであった。客室は、ゲストが長い時間を過ごすプライベート空間であるため、顧客満足度、ホスピタリティの視点から、最優先課題として対処すべき場所であると考えられた。

(2)宿泊施設において受動喫煙対策が異なる背景
 2008年3月に実施したインタビュー調査の結果から、受動喫煙対策の実施背景には、客室規模の影響が予想された。そのため、当初は本調査の結果分析を、客室規模別に8つに分類して各受動喫煙対策の状況について検討を加えた。しかし、図1にも示したように、客室総数と禁煙ルームの割合について正の相関が見られるものの、同規模ホテル・旅館において禁煙ルームの有無、割合が2極化していた。さらに、客室規模とパブリックスペースやレストランなどの飲食店の受動喫煙対策との関連性について検討したものの、一定の方向性がみられなかったことから、規模の大小が受動喫煙対策の推進において、必ずしも重要な要因では無いと考えられた。そこで、次に、結果として示したように「札幌市内」、「温泉地」、「札幌以外」と3つに分類して検討を加えてみた。この分類を行うことで、大まかに札幌市内と札幌市内を除く他の地域におけるシティホテル、ビジネス、観光ホテルの状況と、温泉地に多いであろう日本型温泉旅館の喫煙対策の状況が推測できることを期待した。実際には「札幌市内」に分類された宿泊施設は100%「ホテル」であり、「温泉地」「札幌以外」に分類された宿泊施設内には、ホテルと日本型温泉旅館が混在していた。また、「ホテル」とひと口に言ってもビジネスホテル、シティホテル、外資系チェーンホテルによって経営形態や顧客層も異なるであろうが、今回の調査票では、宿泊施設の形態について明確に聞いていないことから詳細な分析ができなかった。しかし、おおよそこの3つに分類したことで傾向を見ることは可能となった。同規模内における喫煙対策の2極化の背景には、やはり、宿泊施設の運営・経営形態の違いが要因として考えられた。「温泉地」に分類されたホテル・旅館では、客室の禁煙化は遅れているものの、レストランなどの食事処の禁煙化は進んでいた。また、「札幌市内」のホテルでは、客室の禁煙化が最も進んでいた。恐らく、運営・経営形態の違いと併せて、顧客層の違い(道内、道外、国内、国外の比率)も対策の違いに影響を及ぼしているのではないかと思われる。
 先行研究10)では、飲食店の喫煙対策の実施を妨げる要因として、店主、オーナーの喫煙状況が挙げられており、レストランや飲食店のオーナーや店主が喫煙者の場合、不十分な対策を講じている割合が高い。また、たとえ禁煙店にしたとしても、「対策を講じてよかった」という肯定感も低い11)。そこで、今回は、回答者の喫煙状況別に、受動喫煙対策実施状況に差異がみられるかどうか検討をしたが、明確な差異は見られなかった。恐らく、飲食店やレストランとホテル・旅館では喫煙対策の実施規模が異なり、対策の意思決定はもう少し複雑であるため、個々人の喫煙状況が直接的には喫煙対策推進の可否に及ぼす影響力が少ないのではないかと思われた。

(3)受動喫煙対策推進のために必要な要因
 次に、今後、ホテル・旅館の宿泊産業において受動喫煙対策を推進するためにどのような要因が必要かについて考察する。表4の喫煙対策の実施理由を見ると「企業・会社のトップの方針」、「顧客の要望」、「日本国内や世界の禁煙化の流れ」であった。そして、今後、受動喫煙対策を推進する上で最も必要な要因について聞いた結果は、「顧客のホテル禁煙に対する理解」、「社会的な動向」、「利用者からの禁煙を求める声」であった。また、図4に示しているが、受動喫煙対策は、環境対策やゲストやスタッフのホスピタリティ、顧客サービスの向上に関連する、という認識が高い。日本では、FCTCに批准しているものの、海外のように受動喫煙を防止するための禁煙法の制定が予定されていない。健康増進法も努力義務で罰則規定がないことから、法的な拘束力が低いことが問題視されている。しかし、今回の調査結果の中で「健康増進法に罰則規定があった方が良い」と回答したものは12%であり、先行研究10)で対象となった禁煙店のオーナーの32%と比べて少ない。さらに、諸外国のように喫煙を法律で規制することについて、好意的な回答を示しているのは32.2%である。これらのことを総合的に考えると、法律で規制するよりも各業界の自主性に任せたほうが望ましく、この自主性で実施する喫煙対策は、顧客サービスの視点から実施していきたい、と考えている傾向があると思われる。しかし、今後の喫煙対策の方向性を聞いた中で、「現状維持」と回答したホテル・旅館の3割近くが、禁煙ルームも無く、全面禁煙のレストランもない。さらに、「札幌市内」以外のホテル・旅館では、顧客のニーズを反映した対策を実施しているのは5割である。これらを踏まえると、われわれは、受動喫煙対策の重要性について、ホテル・旅館の営業ならびに企業のトップにその必要性を認識してもらうように、働きかけていくことも必要であろう。
 今回の調査から、北海道内のホテル・旅館という観光業界の中心的役割の担う空間の受動喫煙対策の実施状況を把握することができた。受動喫煙対策は、運営形態、顧客層によって実施状況に違いが見られた。特に、客室の禁煙化は、顧客サービスの点から早急に実施すべき点であることが明らかとなった。今後、受動喫煙対策を推進するためには、顧客満足度の向上、ホスピタリティの充実と受動喫煙対策の関連性や国内や海外の動向を企業側へ伝えていくことが、効果的であると考えられた。
 今回実施した調査結果は、アンケートに協力してくれたホテル・旅館に対してフィードバックしている(2008年9月18日)。その中には、「ホテル・旅館の受動喫煙対策について提案」として、具体的な対策内容を提示している。今後は、この調査は国内の主要な政令都市を中心に実施していく予定である。今回の調査で明らかとなった課題は、ホテル・旅館の運営・経営形態と顧客層を把握することが必要であるという点である。全国調査では、この点を改善した調査票で実施したいと考えている。

 本調査は、2008年日本禁煙学会調査研究助成金事業「シティホテルにおける受動喫煙対策の現状と課題~国内の主要な政令指定都市を中心に~」を得て行った。本稿の一部は、第3回日本禁煙学会学術総会(2008年8月9日、広島国際会議場)にて発表した。

謝辞
 本調査を行うにあたり、近畿日本ツーリスト北海道営業本部の大塚久夫氏には多大なるご協力をいただきました。ここに感謝申し上げます。

参考文献
1) ASH, Scotland: Smoke-free Legislation around the World http://www.ashscotland.org.uk/ash/ash_display.jsp?pContentID= 4264&p_applic= CCC&p_service= Content.show&, accessed for Feb 15, 2009.
2) 日本禁煙学会:受動喫煙防止のための政策勧告WHO 2007 について http://www.nosmoke55.jp/data/0706who_shs_matuzaki.html, accessed for Feb 15, 2009.
3) 北海道経済部観光のくにづくり推進局:北海道観光入込客数調査報告書 平成19年度
http://www.pref.hokkaido.lg.jp/NR/rdonlyres/83D43C31419F-49C0-92A8-77206B673590/0/honnpenn.pdf, accessed for Feb 15, 2009.
4) 松崎道幸:サービス業(バー・レストラン・ホテル等)を法律で完全禁煙にしても売り上げは減らなかった―海外の経験のまとめ―, 禁煙会誌 2008;3(4);66-71.
5) 中久木一乗, 竹村薫, 平賀紀子, ほか:東京都内主要駅周辺デパートなどの飲食店街の無煙環境調査結果.禁煙会誌 2008;3(5);101-105.
6) 紅谷歩, 中久木一乗, 大谷美津子:千葉県内主要地区飲食店の無煙環境調査結果.禁煙会誌 2008;3(5);106-107.
7) European network for smoking prevention: Progress in Tobacco Control in 30 European Countries 2005-2007 http://www.ensp.org/files/30_european_countries_text_final.pdf, accessed for Feb 15, 2009.
8) わが国における受動喫煙対策かかわる社会環境整備に関す研究:京都のホテルの調査結果http://www.tobacco-control.jp/surveillance/q12.html, accessed for Feb 15, 2009.
9) 北海道 地域行政局統計課 第114回(平成19年)北海道統計書数http://www.pref.hokkaido.lg.jp/sk/tuk/920hsy/07, accessed for Feb 15, 2009.
10) Kotani K, Osaki Y, Kurozawa Y, Kishimoto T. A survey of restaurant smoking restrictions in a Japanese city. Tohoku J Exp Med. 2005;207:73-79.
11) 北田雅子, 武蔵学, 中村永友:飲食店における受動喫煙対策の現状と課題-北海道「空気もおいしいお店推進事業」登録店の調査から-.厚生の指標 2007;54:27-37.


The state of implementation of hotel tobacco control policy in Hokkaido

Masako Kitada1, Yoshinobu Hata 2, Susumu Ukae3

The aim of this study was to investigate the implementation state of tobacco control policy in the hospitality industry (hotel) in Hokkaido. We conducted a self-administered survey of 240 hotels that contract with a travel agency from April to May 2008, 162 hotel executives (response rate:67.2%).
The results of this survey showed that in 58 hotels (37%) did not have a smoke-free room, 88 hotels (55.3%) did not have a smoke-free lobby (public space), and 86 hotels (54.4%) did not have a smoke–free restaurant. The implementation of tobacco control policy in coffee shops was most behind. The objections from customers were about guest rooms the most. Now, the reasons for the implementation of tobacco control policy has related to three factors. First, the demand from customers, second the policy implementation of the company and its president, thirdly the overseas smoke-free trend and its overflow onto Japanese soil. More than 60% of the respondents were aware of tobacco control policy and customer service, hospitality and environmental measures.
The difference on implementation of tobacco control policy related to administration style and constituency. Tobacco control policy is part of hospitality and quality assurance in hotel industry.

Key words:Hokkaido,  hotel industry, smoke-free policy, customer satisfaction, hospitality


1 Sapporo Gakuin university, Hokkaido, Japan
2 Sapporo Social Insurance General Hospital, Hokkaido, Japans
3 Motomachi Pediatric Clinic Hokkaido, Japan



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《特 集》
 

受動喫煙とおとなの健康:ファクトシート (1)

松崎道幸(日本禁煙学会理事)

20093

 

1.        受動喫煙とは何ですか?                                                    

自分でタバコを吸うことを「能動喫煙」と言い、タバコを吸わない人がタバコの煙の混ざった空気を吸わされることを「受動喫煙」と言います。能動喫煙はとても体に悪いことがわかっていますが、受動喫煙も、想像以上に大きな健康影響があることがわかっています。

 

2.        受動喫煙で吸いこむ有毒物質の量はどれくらいなのですか?                             

火のついたタバコの先から立ち上る煙を「副流煙」、喫煙者がフィルターを通して吸い込む煙を「主流煙」と呼びます。副流煙は主流煙よりもずっと多量の有毒物質を含んでいるという事実から、「受動喫煙の方が能動喫煙よりも害が大きい」と誤解される向きも散見されますが、副流煙は室内に広がって薄まるため、非喫煙者が受動喫煙によって吸い込まされる有害物質の量は能動喫煙よりもはるかに少量です。喫煙者と同居する非喫煙者は、毎日紙巻きタバコを0.01本~1本能動喫煙した程度の有毒物質しか吸入していないという研究結果もあります。しかしながら、非喫煙者はわずかなタバコ煙有害物質にも大きな影響を受けるため、実際に生ずる健康被害は、1日5本~10本の能動喫煙に匹敵する大きさとなることが多くの調査で明らかになっています。

 

3.        受動喫煙でどのような病気が起こるのですか?                                      

能動喫煙で起こる病気は、ほとんどすべて受動喫煙でも起こります。2006年の米国公衆衛生長官報告では、大人に少なくとも10種類以上の病気が受動喫煙によって起こることが確実あるいは強い可能性があるとされています。受動喫煙関連疾患は研究が進むにつれて増えています。この表に挙げられた疾患以外に、糖尿病、メタボリックシンドローム、末梢動脈閉塞症、化学物質過敏症、うつ病、労働災害なども、家庭や職場の受動喫煙で増えることがわかってきました。

受動喫煙で起こる病気(成人).米国公衆衛生長官報告2006より.

                                                        3列目の説明は松崎追加

 

4.        受動喫煙と肺ガンの関係について教えてください                                     

カリフォルニア州環境保護局報告書(PROPOSED IDENTIFICATION OF ENVIRONMENTAL TOBACCO SMOKE AS A TOXIC AIR CONTAMINANT PART B – HEALTH EFFECTS As Approved by the Scientific Review Panel On June 24, 2005)の図7.2.1. Lung Cancer Meta-analysis Based on Data from Taylor et al., 2001によれば、現在までの疫学調査の統計学的合算により、日常生活における受動喫煙で非喫煙者の肺ガンリスクが約30%(1.2995% CI 1.17–1.43)増加することが明らかにされています。

 

 

受動喫煙と肺ガンの関係:カリフォルニア州環境保護局報告書2005年版(763頁)より作図

 

米国公衆衛生長官報告2006年版でも、同様の結論が述べられています。

受動喫煙と肺ガンの関係:米国公衆衛生長官報告2006年版(445ページ)


5.        厚労省の研究でも受動喫煙が肺ガンを増やしていることがわかったのですか?                  

その通りです。日本の厚生労働省の「多目的コホート研究(JPHC研究)」でも、毎年およそ4千人の日本の女性が受動喫煙によって肺腺ガンで死亡していることがわかりました(下参照)。女性の肺腺ガンだけに限っても、毎年4千人が受動喫煙のために死亡するのですから、家庭だけでなく職場、飲食施設、女性だけでなく男性も含め、腺ガンだけでなくすべての組織型の肺ガンも合わせるなら、毎年1万人以上が受動喫煙肺ガンで命を取られていると推定できます。もしこれだけの犠牲者が受動喫煙以外の環境汚染のために発生していることがわかれば、その汚染物質を完全になくする対策が必要なことを否定する人はいないでしょう。

受動喫煙とタバコを吸わない女性の肺がんとの関連について  ―概要―

-厚生労働省研究班「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-

 

…肺がんは、その組織型によって4種類のがん(扁平上皮がん、腺がん、小細胞がん、大細胞がん)に分類され、タバコを吸わない女性の肺がんには腺がんが多いことが報告されています。今回の研究の対象女性でも、肺がんの8割以上は腺がんでした。そこで、腺がんに限って解析を行ったところ、受動喫煙のあるグループの肺腺がんリスクは、受動喫煙のないグループの約2倍高いことがわかりました(図1)。これは、統計学的にも偶然では起こりにくいという数字でした。更に、夫の喫煙本数別にみると、受動喫煙のないグループに比べ、日に20本未満で1.7倍、20本以上では2.2倍と、本数が多いグループほど肺腺がんリスクが高いことが示されました。

タバコを吸わない女性の肺腺がんの37%は夫からの受動喫煙が原因

今回の研究の対象となった男性(夫)の49%がタバコを吸う、25%がやめた、26%が吸わない、と回答していました。これらの数字をもとに計算すると、今回の研究では、肺腺がんのうち37%は夫からの受動喫煙がなければ起こらなかった、すなわち、夫からの受動喫煙が原因であると推計されました(図2)。…

 

図2 タバコを吸わない女性の肺腺ガンへの夫の喫煙状態の影響

http://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/59/passivesmoking_lung.html

 


6.        受動喫煙でも心筋梗塞が起こるのですか?                                        

起きます。

米国公衆衛生長官報告2006年版によれば、日常生活上の受動喫煙によって虚血性心臓病(心筋梗塞など)がおよそ30%増えると結論されています。禁煙でない居酒屋やパチンコ店内のタバコの煙の濃度は、一般喫煙家庭の10倍以上ですから、心臓病の危険もそれに応じて増えます。

受動喫煙による心筋梗塞リスクの増加.1日当たり曝露本数別.

【出典】米国公衆衛生長官報告2006年版 図8.3 Pooled relative risks of coronary heart disease associated with various levels of exposure to secondhand smoke among nonsmokers(p526

 

7.        タバコを吸わない人にとって、受動喫煙で心臓病になる危険はどれくらい大きいのですか?           

厚労省の長期追跡データ(NIPPON DATA80)から推定すると、虚血性心疾患リスクが受動喫煙で30%増えるということは、総コレステロールが200mg/dlから230mg/dlに増えたか、130mmHgの最大血圧が150~160mmHgに上がってしまったのと同じリスク増加度です。タバコを吸わない人が家庭や職場の受動喫煙で30%心筋梗塞のリスクが増えるということは、受動喫煙者の心筋梗塞の4分の1は、受動喫煙によって引き起こされることを意味します。控えめに見ても日本では毎年数千人の非喫煙者が受動喫煙によって心筋梗塞を患っていると考えられます。

 

日常生活の受動喫煙に匹敵する血圧・コレステロール増加度・心筋梗塞寄与率

 


8.        受動喫煙が心臓病を起こす仕組みはわかっているのですか?                            

心臓病の危険を増す因子に能動喫煙と受動喫煙がどれほどの影響をもたらしているかの比較を下図に示しました。ここでいう「受動喫煙」とは、タバコを吸う人と同居している非喫煙者が、あるいは普段タバコを吸わない人が30分だけ受動喫煙を受けた場合です。能動喫煙とは1日20本程度の喫煙をしている人のことです。非喫煙者はタバコ煙の有害物質に対する感受性がとても高いため、能動喫煙に近い影響が非喫煙者にもたらされていることがわかります。

受動喫煙と能動喫煙の生体作用の比較

【出典】Barnoya J, Glantz SA.Cardiovascular effects of secondhand smoke: nearly as large as smoking. Circulation. 111:2684-98,2005.

タバコ煙に含まれる、微小粉塵、一酸化炭素、ニコチンなどはいずれも酸化ストレス、炎症、交感神経緊張をもたらして、心筋梗塞あるいは心室性不整脈の発症リスクを高めます。日常生活の受動喫煙は、軽喫煙者(1日喫煙本数10本以下)に匹敵する心臓病リスクをもたらしています。

受動喫煙が心筋梗塞を起こすメカニズム

【出典・参考】Routledge等.Why cardiologists should be interested in air pollution. Heart. 2003 Dec;89(12):1383-8.http://heart.bmj.com/cgi/content/full/89/12/1383

 


9.        バーやレストランを禁煙にするだけで、心筋梗塞が何割も減ったというのは本当ですか?            

本当です。

受動喫煙防止法によって、サービス産業を含むすべての職場を完全禁煙にした欧米の7地域では、心筋梗塞の発生率が11%47%減りました。人口の大部分を占める非喫煙者が、バーやレストランなどにおける受動喫煙で、いかに大きな心臓病リスクを背負わされていたかを示すものです。

 

すべての職場・サービス産業禁煙後の心臓病発生率の変化

【出典・参考】http://www.nosmoke55.jp/gakkaisi/200712/index.html 藤原久義:公共の場・職場の法的喫煙規制は心臓病を減少させる―わが国でも法的に全面的受動喫煙禁止地区を設定し、疾患発生が減少するかを調査する時期ではないか? 禁煙会誌(2007年) 28号 表1.法的喫煙規制による心臓病減少効果に関する報告

<こんな情報もあります>


10.   受動喫煙と脳卒中は関係があるのですか?                                       

とても深い関係があります。

受動喫煙で影響を受けるのは心臓の血管だけでありません。脳の動脈も手足の動脈もすべて受動喫煙で細くなり、詰まりやすくなります。中国と米国で調査の結果、家庭の受動喫煙で脳梗塞が40~70%増えることが報告されています。さらに、足の動脈が詰まる末梢動脈閉塞症も家庭の受動喫煙で倍増することが明らかになりました。受動喫煙で脳梗塞のリスクが50%増えるということは、130mmHgだった最大血圧が150~160mmHgに上がってしまったのと同じ悪影響です。

 

 


11.   日常生活の受動喫煙で受動喫煙者の10~20%が死ぬというのは本当ですか?                 

本当です。

タバコを吸わないけれど家庭の受動喫煙がある人とない人でどれくらい死亡率が違うかという追跡調査をしてわかったことです。ニュージーランドでは、男性非喫煙者の年間死亡率は受動喫煙なしで10万人あたり1000人でしたが、受動喫煙ありでは10万人あたり1200人と20%も増加していました。この1200人のうち受動喫煙による超過死亡が200人ということは、200÷1200≒17%が家庭における受動喫煙で「殺された」ということになります。非喫煙女性ではその比率はさらに大きく、23%が受動喫煙死していました。

 

 


  その後、上海と香港における調査でも、家庭の受動喫煙が非喫煙者の1225を死亡させることがわかりました。

 

 

 

 

 

<こんな情報もあります>


12.   禁煙でない職場や飲食店はどれくらい危険なのでしょうか?                                  

受動喫煙による命の危険を測るわかりやすい物差しは微小粉塵濃度(PM2.5)です。WHO Air quality guidelineによれば、空気力学的直径が2.5μまでの粉塵濃度(PM2.5)が10μg/㎥増加すると全死亡が24時間で1%(急性影響)、年間で6%(慢性影響)増加します。

様々なサービス産業店内のPM2.5を図に示しましたが、禁煙でない飲食店内のPM2.5は、WHOのガイドラインを10倍から100倍越えた濃度となっており、従業員と利用者の生命と健康を脅かす危険区域となっています。

WHO Air quality guidelines for particulate matter, ozone, nitrogen dioxide and sulfur dioxide Global update 2005 Summary of risk assessmenthttp://www.who.int/phe/air/aqg2006execsum.pdf#search='who%20air%20quality%20guideline

さまざまな室内のタバコ煙由来PM2.5濃度と死亡リスク(24時間/日曝露と仮定した場合)

*バックグラウンドを差し引いたPM2.5600倍(100倍)すると、

慢性(急性)曝露時10万人当り生涯超過死亡リスクとなる

【データ出典】中田ゆり(空色場所)(東京大学)測定データ.全飲連ニュースNo.43 平成15715日:宮崎 竹二(白色場所): 喫煙環境中におけるアセトアルデヒド、ホルムアルデヒド濃度. 生活衛生,  48181-190 2004 【棒グラフ色分け】米国環境保護局エアクオリティーレベルに準拠:良好():空気の質は良好であり健康危険はほとんどない◆許容範囲内():空気の質は許容範囲内だが、特定の種類の大気汚染物質に特別に敏感なごく少数の人々に若干の健康上の危険をもたらす可能性がある◆弱者に危険():影響を受けやすい人々(小児・高齢者・病弱者)に健康危険がもたらされる可能性がある。一般の人々には影響がないと思われる◆危険(赤):すべての人々に健康障害が起きる可能性がある。影響を受けやすい人々にはより重大な健康障害が起きる可能性がある◆大いに危険(紫):警告!すべての人々により重大な健康障害が起きる恐れがある◆緊急事態(茶):直ちに対策を取らなければすべての人々に極めて重大な健康障害が起きる恐れがある。

 

喫煙者の住む住宅のPM2.5は、タバコ煙汚染のため、喫煙者のいない住宅よりも約30μg/高くなっています(WallaceParticle concentrations in inner-city homes of children with asthma: the effect of smoking, cooking, and outdoor pollution. Environ Health Perspect. 2003 Jul;111(9):1265-72.)。前述のWHOガイドラインに沿って算定すると、この濃度増加により全死亡リスクが3%(急性曝露)から18%(慢性曝露)増えると推計できます。前段で、疫学調査で明らかになった家庭の受動喫煙による非喫煙者の死亡リスク増加度が10%~20%であることを示しました。疫学調査成績とPM2.5レベルから推計した値がほぼ一致したことから、前段の結論が下記のように再確認できました。

 

13.   受動喫煙の全死亡リスクは、他の有害物質のリスクと比べてどれだけ大きいのですか?             

前段で家庭や職場の受動喫煙が10人に12人の命を奪うことを示しました。もし他の物質による環境汚染が、それにさらされた人の12割の命を奪うことがわかったなら大問題となります。逆に言うと、タバコの煙以外の環境汚染は実に厳しく規制されているのです。一例をあげると、アスベスト(石綿)を扱う作業場は、大気汚染防止法によって、敷地境界の空気を採取してアスベスト繊維濃度を測り、1リットル中10本以内に抑えることが義務付けられています。この濃度を越えると、大気汚染防止法違反のかどで最高懲役1年の刑が科されます。ところでこの敷地境界基準のアスベスト繊維を含んだ空気を一生呼吸して暮らす10万人から6人のアスベスト関連ガン死が発生すると推定されています。(http://www.mhlw.go.jp/shingi/2003/05/s0523-5a16.htmlより算定) アスベスト対策は、10万人から6人以上の生涯超過死亡者を出すと、懲役1年にするぞという非常に厳しい基準です。

これに対して、受動喫煙はどうでしょうか。家庭や職場で受動喫煙があると、非喫煙者の12割が早死にするというのですから、10万人ならば、1万~2万人が早死にするということになります。つまり、完全禁煙でない家庭、職場はアスベストの敷地境界基準を1600倍から3000倍以上越えた致死的空気汚染環境になっているということになります。さらに、禁煙でない飲食店や娯楽施設、タクシー車内はその10倍から100倍の致死的汚染環境となっているわけです。

以上みてきたように、日常生活の受動喫煙は、いわゆる環境汚染問題の被害の大きさを何ケタも越える致死的健康被害を現在もたらしているのです。環境問題専門家の試算によれば、受動喫煙は、現在の日本で大きな問題となっている、ディーゼル排ガス、ダイオキシン、メチル水銀など他の主要な環境汚染物質がもたらすリスクの総計を数倍上回る死亡リスクを日本国民に負わせています(次図)。

参考ですが、大気中のベンゼン、トリクロロエチレン、ホルムアルデヒドなどの発ガン性化学物質による10万人あたり生涯リスクも数人以下になる様規制されています(下図)。発ガン性化学物質は通常このような厳しい対策がなされるのが常識であることを再度強調しておきます。

 

大気中のベンゼン,トリクロロエチレン,テトラクロロエチレン,ジクロロメタン,ホルムアルデヒドによる

都道府県別の複合発がんリスク(10万人当り生涯リスク)

国立環境研究所 ニュースhttp://www.nies.go.jp/kanko/news/23/23-1/23-1-04.html

 


14.   「完全分煙」で受動喫煙の害は防げますか?                                        


防げません。

その理由は、第一に、絶対に煙の漏れない「完全分煙」は不可能だからです。タバコの煙の臭いを感知できるタバコ煙閾値濃度(最低濃度)はタバコ煙由来微小粒子濃度(PM2.5)として、1μg/です。Junker. Environ Health Perspect 109:1045-52,2001「完全分煙」の喫煙区域の出入りに伴って禁煙区域で少しでもタバコの臭いがした時、そこは、10万人あたりの生涯死亡リスクが100600人になっています。(世界保健機関の空気の質ガイドライン2005年版(“WHO air quality guidelines 2005”で検索のこと)に示されているように、PM2.510μg/増えるごとに全死亡が6%(急性曝露)~10%(慢性曝露)増加することから計算した結果です。) アスベスト規制と同じレベルの日常生活の安全を実現するためには、ごくわずかに臭うタバコ煙入り空気の濃度をさらに数百分の1に下げなければなりません。「禁煙区域」の換気速度を数百倍に増やすことなど不可能です。

第二に、喫煙区域で働く人々の健康を守れないからです。分煙なのですから、当然「喫煙区域」があるわけです。喫煙区域は、先に述べたように、アスベスト規制基準を3桁から4桁上回る致死的タバコ煙汚染状態となっており、そのような場所で働かなければならない人々やサービスを受けざるを得ない非喫煙者の健康を守ることができないからです。食べ物への食品添加物や残留農薬の規制にはゼロリスクを求めながら、禁煙でない飲食店で無農薬野菜の料理を食べるという矛盾はなくさなければなりません。アスベストはダメだが、受動喫煙は構わないというダブルスタンダードは通りません。「例外なき屋内完全禁煙」だけが、受動喫煙問題の唯一の現実的な解決策です。(問 下の店主敬白の矛盾はどこにあるでしょうか?)


 

15.   世界の受動喫煙対策はどうなっているのですか?                                    

世界保健機関はタバコ規制国際枠組条約で、受動喫煙に安全レベルはないという科学的見地から、屋内完全禁煙化対策がグローバルスタンダードであると述べています。現在世界の多くの国や地域で、屋内完全禁煙化が法律で義務化されています。


16.   飲食店などサービス産業を完全禁煙にすると売り上げが落ちるのではないですか?              

落ちません。

今までに世界の多くの地域でバー・レストランなどサービス産業が全面的に禁煙化されましたが、ほとんどの場合、売上は同じか増加する、つまり営業に対するマイナスの経済影響はなかったということが科学的調査で明らかになっています。一例としてニュージーランドにおけるレストラン・バー完全禁煙法施行前後の売上トレンドを示します。

禁煙法施行前後のニュージーランドのレストラン・バー4半期毎売上高

【出典】Asthma and Respiratory Foundation of New Zealand. Aotearoa New Zealand Smokefree Workplaces: A 12-month report. Wellington, Asthma and Respiratory Foundation of NewZealand, December 2005. 日本禁煙学会誌論文→http://www.nosmoke55.jp/gakkaisi/200808/gakkaisi0808.pdf

 

バー、レストラン、ホテルをはじめとしたサービス産業を法律で完全禁煙にした経験は、世界の多くの国と地域で無数にありますが、禁煙によってサービス産業に経済的悪影響はなかったことが、事後調査で明らかになっています。以下にそれを論じた日本禁煙学会誌掲載論文の要約を示します。ぜひ元論文をご覧ください。

(注記:この論文発表後にドイツ国内の受動喫煙防止規制の大きな進展がありました。ドイツにはすべての州に受動喫煙防止法が存在します。次項にそれを示しますのでご覧下さい。サミット参加国で全国レベルの屋内禁煙法制がない国はいまや日本とロシアだけです。

松崎道幸:サービス業(バー・レストラン・ホテル等)を法律で完全禁煙にしても売り上げは減らなかった―海外の経験のまとめ.日本禁煙学会誌 366-712008

要約 サミット参加先進8か国中、イギリス、フランス、イタリアが全国レベルでアメリカ、カナダが大半の州で公共施設、職場、バー、レストランを法律により完全禁煙としている一方、日本、ドイツ、ロシアでは屋内禁煙法制そのものが存在しない。レストラン・バー・ホテルなどのサービス産業を法律で禁煙にしたことで生ずる経済影響を論じた100件近い研究のレビューによれば、客観的指標に基づき、長期的総合的な分析手法を用い、タバコ産業の資金提供を受けず、査読システムのある専門誌に掲載された研究調査のほとんどすべてが、サービス産業完全禁煙法令によるマイナスの経済影響は生じないとの結論を出していたことが明らかになった。ニュージーランドでは、屋内禁煙法の施行後もサービス産業の売上にマイナスの影響は発生せず、諸都市諸州でのホテル禁煙条例施行後の米国においても、日欧からの観光客は減らなかった。これらの知見は、サービス産業を完全禁煙としても、売り上げの減るおそれがないことを示し、飲食娯楽施設完全禁煙法制が関連業界に経済的悪影響を与えるとする主張に根拠がないことを示すものである。

http://www.nosmoke55.jp/gakkaisi/200808/gakkaisi0808.pdf

17.   ドイツの受動喫煙防止法制の現状                                          

【全国レベルの法制について】 ドイツ連邦政府は2007年にGerman non-smoker protection legislation を制定し、連邦政府施設と公共交通機関を禁煙としました。しかし飲食店に関する法律は州の管轄であり、全州で討議がなされた結果、一致した見解が得られず、州毎に完全分煙を含めた法令が施行されました。これに対し、小さな飲食店では完全分煙を導入する余裕はなく、完全禁煙にすると喫煙する客が大きな飲食店へ流出し、これは不平等すなわち違憲であるとの訴えが2州の飲食店所有者からなされました。2008年に連邦憲法裁判所は、現法のもとでは違憲となるが、州法が完全禁煙であれば違憲でないとし、2009年末までに違憲とならない法律を州が作るべしという判断を下しました。この結果、現在各州には、例外なき完全禁煙とするか、「違憲とならない分煙」措置を案出するかの二者択一が迫られています。どの方向に行くかは、ドイツの禁煙推進陣営の奮闘にかかっていると考えられます。しかし、日本で言えば全都道府県に罰則付きの受動喫煙防止法があるに等しいのがドイツの状況であり、すばらしい前進であることは間違いありません。

【各州の現状】 国レベルの非喫煙者保護法が保留状態になっている中で、16州すべてで受動喫煙防止法令が作られ発効しています。ドイツは「パッチワーク受動喫煙防止法」によってカバーされていると言えます。すべての州法において法令違反には罰金が科されます。違反者(喫煙者・経営者など)に最高5000ユーロの罰金が科せられる州もあります。以下に州毎の内容を概説します。飲食娯楽施設に対しては日本で言うところの「分煙可」という規定が多く見られますが、喫煙区域の設置状況、受動喫煙状況を知るためには、実際に現地を訪ねる必要があるでしょう。

 


ドイツ各州の受動喫煙防止法令

      Baden-Württemberg (法令施行:078月~):ディスコ:完全禁煙。パブ・レストラン:喫煙区域あり。学校:禁煙、しかし18歳以上の生徒が通うギムナジウム・職業学校(ベルーフシューレ)には喫煙所あり。

      Bayern081月~):完全禁煙。民間施設には裁量を認める。

      Berlin081月~):バー・パブは禁煙。喫煙室設置は認められているが、従業員は入れない。

      Brandenburg (081月~):ディスコは完全禁煙。パブ・レストランは禁煙だが、喫煙区域あり。

      Bremen(07年~)学校・病院は法律で禁煙。しかし喫煙区域あり。081月からバー・レストラン・ディスコは禁煙。喫煙区域の設置可能。

      Hamburg ( 081月~):レストラン、バーは禁煙。喫煙区域設置可。

      Hessen0710月~):連邦政府施設、レストラン、バー、ディスコなどは禁煙。 separate smoker areas設置は可能。

      Mecklenburg-Vorpommern078月から学校、病院、連邦政府施設は禁煙。 separate smoker areas設置は可能。081月からバー、レストランは禁煙。 separate smoker areas設置は可能。

      Niedersachsen081月~):レストラン、バー、ディスコは禁煙。連邦政府施設、学校では、屋外(敷地内?)も禁煙。ホテル、ホステルでは、飲酒サービス時のみ喫煙可。

      Nordrhein-Westfalen081月から連邦政府施設は禁煙。同年7月からバー、レストランも禁煙。喫煙区域設置可。伝統行事(お祭り・カーニバルなどの禁煙措置なし)

      Rheinland-Pfalz08215日~):連邦政府施設は禁煙。レストラン、バー、学校にseparate smoker areas設置可能。

      Saarland08215日~):連邦政府施設、パブ、バーは禁煙。喫煙区域設置可。75㎡以下のバーで経営者だけがサービスする場合は喫煙可。

      Sachsen0821日~):政府施設、学校では、敷地内禁煙。バーとレストランも禁煙だが、喫煙区域設置可。

      Sachsen-Anhalt081月~):バー、レストランは禁煙。喫煙区域設置可。

      Schleswig-Holstein081月~):連邦施設、バー、レストランは禁煙だが、バー、レストランには喫煙区域設置可。

      Thüringen087月より):連邦政府施設、バー、レストラン、ディスコは禁煙。 separate smoker areas設置は可能。


【出典】The Smoke Free Partnership http://www.smokefreepartnership.eu/Smoke-free-legislation-in-the-EU

ドイツにおける受動喫煙防止法制の現状http://www.smokefreepartnership.eu/Germany      以上



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日本禁煙学会の対外活動記録
(2009年2月~3月)
3月 5日 「タバコ対策基金」の創設について-定額給付金のご寄附のお願い-
3月 5日 日本医師会認定産業医の認定条件等に関する要望書
3月10日 「神奈川県「受動喫煙防止条例」の原案どおりの可決のお願い」を神奈川県会議員に送付
3月18日 「新入生を迎えるに当り敷地内禁煙と防煙・禁煙教育実施のお願い」を全国各医学部・医科大学へ送付
3月24日 神奈川県「公共的施設における受動喫煙防止条例」の可決成立を歓迎します(祝・声明)




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ISSN 1882-6806

第4巻第2号 2009年4月7日

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